ホテルの香り
マリオット・インターナショナルのラグジュアリーブランド「JWマリオット」の日本初進出ホテルで2020年にオープンしたJWマリオット・ホテル奈良に泊まってみました。
ホテルのロビーに入ると、「その世界」に足を踏み入れたことを強く感じさせるものがあります。インテリア、サービス、香りなど。
マリオットホテルとJWマリオットにはそれぞれ、世界共通の香りがあり、ブランドのコンセプトに合わせて独自に調香されたものだそうです。
マリオットホテルではゴージャスでエレガント、華やか、花のような香りに、JWマリオットでは華やかだけどより落ち着いた、健康的な香草や木の香りが出迎えてくれました。
なお、それらのアロマはエントランスで最も強く香り、プライベート空間である客室には無く、アメニティの香りにそのコンセプトが反映されているのみです。歓迎の場面に香りを効果的に使っています。
JWマリオットのブランドコンセプトは「マインドフルネス」だそうです。
ホテル滞在中は、気持ちを落ち着かせて心身を整えてください、という理念。
マリオットホテルの香りと比較してより健康的な香りに感じたのは、それらを表現した香りだったからでしょう。
香りに対する個人的な好き嫌いの他に、人が香りに対して抱くイメージには一定のパターンがあり、それは経験や文化によって形成され、ある程度共通のものなのだろうと思います。
香りのデザインはどのように行われるのでしょう。
まったくの門外漢が勝手なことを述べますが、香りのデザインは、カラーコディネートに似ているのかもしれないと想像します。
色は単色でもいくつかの印象を持ち、配色(複数の色の組み合わせ)ではさらに具体的な印象を持ちます。
例えば赤という色は単色では「暑い(熱い)」や「情熱」という印象がある一方、「辛い」「危険」などの印象も人に与えます。
それが赤黄緑という配色になると、「にぎやかな」印象となります。栄養たっぷりの野菜のような赤黄緑の3色セットに、熱さや危険はあまり感じられません。(このような配色の持つ印象、つまり多くの人がその配色に抱くイメージと配色パターンを紐づけたスケールを、日本カラーデザイン研究所が定義しています。)
香りにおいても、素材やブレンドには多くの人が共通で抱くイメージがあり、それらを踏まえてブランドが発信したいメッセージに合う香りをデザインしてゆくのではないでしょうか。
ちなみに、香りの世界も、一人のカリスマが創り上げる場合と、スタジオなど組織的に香りを創造する場合とがあるようです。チームで香りをデザインするプロセスには大変興味が湧きます。
それにしても、グラフィックデザインにおいてブランドの基本カラーとして定義する色数に対して、香りのデザインにおいて調香に用いる香りの素材の数はとんでもなく多く、そのブレンドは複雑なのではと想像します。何より、いくつもの香りを嗅ぎ続けても判別を誤らない、絶対的な嗅覚が必要です。
畔柳